永く続いた平和な時代が、ついに終焉を迎えようとしていた。
この疑いようのない清浄な大地に、邪悪な”何か”がひっそりと産まれ落ちた。
しかしその事に気づいた者はまだ誰もいなかった。
人々は、これまでと変わらぬ朝を迎え、精一杯の労働を行って、神に感謝し、安堵のぬくもりとともに眠りにつく、そんな小さな幸せを日々繰り返していた。
・・・
あるいは、すでに何かを感じていた人がいたのかもしれない。
破滅の亀裂は、僅かだが確実に人々の足元に忍び寄ってきていた。
・・・
辺境の村から、ギルドに一通の依頼書が届いた。
中には、数枚のコインとともに、か細い字で書かれた手紙が入っていた。
ギルドメンバーが読み上げると、どうやら行方不明になった兄の、妹からの捜索願いのようだった。
これといった特徴もない、ギルドではこれまで幾度となくこなして来た依頼の一つだ。
この手の事件は、多くは手遅れで、後味の悪い無慈悲な結果を突きつけられる。
報酬も少なく、そのため、手を挙げる者は誰もいなかった。
その時、新米メンバーのあなたに、ベテランの一人が声をかけた。
− 何事も経験だ −
その一言で決まった。
新人に抗う権利は無い。
あなたは静かに依頼書をバックパックにしまうと、旅の準備を始めた。
難しい依頼ではない、数日の調査と、少しの同情で終わる任務だ。危険もおそらく僅かなものだろう。
・・・にもかかわらず、胸騒ぎが止まらなかった。
まるで何者かに誘われているかのように。
暗闇の向こうで”何か”が微笑みかけてくる。それは、天使か、悪魔か、それとも・・・。
・・・
あなたは目を開き、「ふっ」と一息吐くと、覚悟を決めて力強く前に踏み出した。
・・・運命の歯車が動き出し、
そして、狂乱の時代が幕を開ける。